移住者体験談
金子 雅人
果樹栽培の「アトツギ」として独立するという選択
- 山口市
- 金子 雅人
- 農業
移住までのいきさつを教えてください。
私は、2023年の4月から山口市の阿東地域で梨農園を継承しました。元々は香川県の出身で、祖父母が兼業農家であり、農業のアルバイト経験もあったため、農業への興味というか憧れを抱きながら、農業とは全く違う保険業界でサラリーマンをしていました。そんな中で、香川と福岡で遠距離恋愛中だった妻と婚約したことをきっかけに、二人で暮らす移住先を探し始めました。そしてオンラインの移住就農イベントに参加した時に、山口市で梨農園の事業継承を募集されているというお話を聞いてピン!と来て、あっという間に具体化していきました。実はその頃、他県の情報も収集していましたが、果樹の事業承継の案件は滅多にないこと、また新規就農にしても果樹の場合は所得が得られるまでには年数がかかることから、あまりお勧めされていない状況でした。それでも、山口県内で他の果樹の事業承継された方から経験談を伺ったりするうちに、梨農家への決意が芽生え始めました。最終的には気候や災害のことを考えた上で、その他の西日本の候補地より山口県の方が好条件だと感じて決断しました。就農イベントで梨農園の話を聞いてから2回ほど山口に足を運んで12月には決断し、その後3月に山口市内に移住して4月からは研修でしたので、今思えばわずか半年のスピード移住就農でした。それでも全く苦労がなかったわけではありません。特に事業承継については、積極的に取り組む山口県でもまだまだ事例が少ないのが実情です。交渉や手続きなど、役所や支援機関の皆さんにはいろいろと手伝っていただきながらでしたが、苦労したことも事実です。こうやって私たちが少しずつ実績を積み重ねていくことで、これから事業承継して就農を目指す方の力になれれば幸いです。
今のお仕事について教えてください。
先ほどお話しした通り、2023年4月から自分の梨農園「ペコッテファーム」の経営をはじめました。それまでは農業大学校での「担い手養成研修」を1年、梨組合での現地研修を1年の計2年間の研修を経て独立したという経緯です。研修を始める時にはすでに今の農園の継承は決まっていましたので、この2年で自分が独立してやって行かなけれならないというプレッシャーはありました。また自分で経営する最初の年なので、何が起こるのかドキドキしながらの毎日です。果樹の枝造りや実に袋掛けをしたり、農園の下草を刈ったりと繁忙期の前にもやることはたくさんあります。最初の春は、農園の前の持ち主の方にお手伝いいただくこともありましたが、基本は一人でやっています。幸いなことに最初の年の収穫を無事に迎えることができ、ホッとしました。豊かな自然の中で、長く生きている果樹を大切に育てながら、その変化を見ていくのがすごく楽しみな毎日です。また将来を見据えて新しい苗木も植えましたので、数年後にたわわに実ることを楽しみに仕事に励みたいです。
それと、私は農園から少し離れた街中に住んでいて毎日通っているのですが、休憩をしたり道具を置いたりする他に、将来的に農園カフェができたらいいなと思い、古民家を購入しました。今は農園でたくさん収穫できるようにすることで精一杯ですが、近い将来に向けても準備を進めているところです。
就農するにあたって利用された制度やサポートはありましたか?
もちろん、しっかりと利用しました。他県もいろいろと調べたのですが、山口県はその中でも充実した制度だったと思います。費用面では、研修の2年間と就農後の3年間は農業経営の安定に向けた支援をいただけるので、大変助かっています。この3年の間に、農園での収穫を増やして生活を安定させるための計画を立てているところです。ただ私自身は支援制度以上に、サポートしてくれる人々に恵まれました。移住就農に向けて山口農林事務所の方だけでなく色々な機関の方にサポートしていただきましたし、研修期間に出会った仲間たちとも情報交換しながら一緒に頑張っています。それに自分の両親や妻の両親も、秋の収穫時期には山口にやってきて、一緒に梨の収穫を手伝ってくれました。家族に自分の農園で収穫した梨をおいしいと言ってもらえた時は、うれしかったですね。
いま移住就農をお考えの方々に何かアドバイスをお願いします。
農業の大変さは作物によっていろいろあると思うので割愛しますが、経営が安定するまでのお金のことはしっかり準備されることをお勧めします。様々な補助金や支援制度は大変ありがたいのですが、手元にお金が入るまでのタイムラグがどうしてもあります。また作物が収穫できて収入が入る時期も限られます。そのため就農してしばらくの間は支出があってもお金が入ってこないということがありますので、事前の蓄えはある程度必要です。明確にいくらあれば大丈夫とは言えませんが、就農だけでなく生活資金も考えると、サラリーマンの方なら年収の1年分は確保しておくといいのではないでしょうか。うちの場合は、妻が別の仕事をしてくれているので生活できていますが、特に一人で始める際は注意していただきたいです。
いろいろ話しましたが、農業は素晴らしい仕事です。特に山口県では、ゼロからではなく農園を継承して始めるということも可能ですから、比較的少ないリスクで始めるチャンスもあります。仲間が増えてくれることを楽しみにしています。
金子 雅人さん
かねこまさと/山口市在住
ペコッテファーム
結婚を機に脱サラし、就農先を探す中で梨園の事業承継に縁があり、山口県への移住・就農を決意。「ペコッテファーム」を経営。香川県から移住。