移住者体験談
宮地 直人/佳世
移民の歴史があるからか、 移住者に対してすごくオープンで優しいんです。
- 周防大島町
- 宮地 直人/佳世
- 起業・創業
Iターンされるまでの経緯を教えてください
直人さん)僕は愛媛県出身です。大阪で製薬会社に就職し、転勤で西日本のあちこちを転々としていました。元々釣りが好きで、島暮らしには興味がありました。
佳世さん)夫とは大阪で出会いましたが、結婚当初から、「仕事を辞めて島で暮らしたい」とよく話していましたね。
直人さん)移住を本格的に考え出したのは、会社の「セカンドライフを考えるセミナー」に参加した50歳になった時でした。50歳は、責任が重くなる一方で、若い人に仕事を引き継いだり、前線から退き始める頃。セミナーは、立場や仕事上の関係を超えた一人の人間として、この先の自分の人生について考えてみよう、というものでした。その中で、僕は「瀬戸内海の島に家を買って、釣りをしながら楽しく過ごしたい」と、今後の目標を発表しました。具体的に自分で口にすることで、「そうか、自分はこれがやりたいんだ」と改めて自覚したんです。
ちょうどその年、周防大島町の移住ツアーに参加したことや、会社に早期退職制度が導入されたことも重なって、翌年には退職し、移住に向けて動き出しました。
佳世さん)移住を決めた年は岡山県に住んでいたんですが、下の息子が高校3年生でした。息子の卒業までは留まる必要があったので、先に夫だけ周防大島町に移住して準備を進め、次の年の春に遅れて私が引っ越してきました。今は、子供たちも社会人になり、夫婦で島暮らしを満喫しています。
移住先を周防大島町に決めたのはなぜでしょうか?
直人さん)前々から、旅行半分であちこちの移住ツアーに参加していたんです。周防大島町の移住ツアーもその1つ。ネットで見つけて、申し込みました。周防大島町は、キャンプや釣りで時々来ることもあったので、全く知らない土地ではなかったんです。
町役場主催の移住ツアーは、買い物など生活に必要な所、空き家などを見て回ったり、暮らしていく上で大変なこと、不便なところも教えてくれました。現実的で、暮らしのイメージがつきやすいツアーでしたね。そういうところも含めて、「良いところだね。ここに住もうか」と妻と話し、その日のうちに、町役場の方に空き家物件を探してもらうようお願いしました。
その半年後に紹介してもらったのが今の「石鍋亭」です。初めて視察に来た時、ここから見た夕日がとても綺麗で、「ああ、自分はここで死ぬんだな」と漠然と思ったことを覚えています。すぐに購入を決めました。
移民の歴史があるからか、周防大島町の方は、移住者に対してすごくオープンで優しいんです。先に1人で移住してきた時、僕は島中のあちこちに顔を出しては友達づくりに励みました。すぐに仲良くしてもらい、家のリフォームや食材の仕入れなども地元の方にお願いできるようになりました。地元の方々に受け入れていただいたのも、周防大島町に移住して良かったなと思うところです。
「石鍋亭」について教えてください
直人さん)「石鍋亭」という名前は、実は会社に勤めていた頃からの自宅の屋号なんです。当時、キャンプ仲間で集まって料理をしたり、自分が釣った魚を料理して会社の同僚や友人に振舞ったりを自宅でしていました。
佳世さん)一緒に、石鍋で炊いたご飯も出していたんです。そこから、夫は「石鍋さん」、家は「石鍋亭」と呼ばれるようになりました。この民宿でも、地元産のお米を石鍋で炊いて提供しています。今までの「お店ごっこ」が本当になっちゃった、という感じなんです。
直人さん)石鍋亭では、1日1組限定でお客さんに泊まっていただいています。石鍋ご飯はもちろん、周防大島町で獲れた魚や無農薬の野菜を使ったヘルシーな料理が自慢です。コロナ前は全国からお客さんがお見えになっていましたが、最近は、山口県東部やすぐ隣の広島県などの近くから、家族で来られるお客さんが多いですね。「明日の朝は、ここから出勤します」という方もいらっしゃいますよ。
佳世さん)開業した当初は、息子2人の大学費用を稼ぎながらの生活だったので大変でしたが、今は常連のお客さんもついてくださり、おかげさまで予約もたくさんいただいています。
周防大島町に住んでみて、どんなところに魅力を感じますか??
直人さん)ゆるゆるとした暮らしのテンポ感でしょうか。会社勤めをしていた頃よりも人間らしく、自由な生活ができているなと感じています。島の風土がそうさせるのかな。初夏の時期には島中のみかんの花が一斉に咲きます。どこもかしこも花の香りがして、それがまた幸せな気持ちになるんですよ。
それと、移住者同士のつながりが強いのも、周防大島町の魅力だと思います。多業種の方とお互いに尊敬し協力し合いながら頑張っています。
佳世さん)私は、島のお年寄りがすごく元気だなといつも思うんです。年を取っても畑仕事をしたり、日々のお買い物に出かけたりと、やることがたくさんあるのが、田舎暮らしの良いところですよね。「私もこんなおばあちゃんになるのかなあ」と、自分の未来を思い浮かべています。
直人さん)若い移住者の方が集落に入ってくることで、お年寄りにも良い刺激になっている気がしますね。「私たちも頑張ろう」という気持ちになっているんじゃないですかね。
移住を考えている方へ、メッセージをお願いします
直人さん)最初から完全な計画を立てず、とりあえず住んでみるところから始めると良いと思います。移住ツアーや、プチ移住体験イベントなどに参加してみたりするのもおすすめです。あまり大きなビジョンを持つと、何か1つのことが予定通りに行かなかった時、行き詰まってしまう。まずは考えすぎず、住んでみて、良いところや、やりたいことを具体化していくと良いんじゃないかなと思います。
佳世さん)以前は都会が良いなと思うこともありましたが、今は田舎暮らしも良いなあと実感しています。庭の草抜きは大変だし、便利なものは何もないけれど、それはそれで楽しいですよ。
直人さん)年齢が上がってきて体力も落ちてくると、「働こう」という意思から「働かされている」という感覚になってきて、会社勤めがすごく辛くなってくると思うんです。今は定年が65歳になり、退職してから何かしようと思うと、もう力が残っていないんですね。だから、早めに退職してやりたいことを始めるのも、良い選択肢なのかなと思っています。
宮地 直人/佳世さん
みやじ・なおと/かよ/周防大島町在住
夫の直人さんは愛媛県、妻の佳世さんは大阪府出身。直人さんが大阪の製薬会社に勤めていた50歳の時、会社で開催された「セカンドライフを考えるセミナー」をきっかけに移住を考え始める。
2015年に周防大島町に移住。民宿「石鍋亭」を開業し、1日1組限定のお客さまを夫婦2人でもてなしている。