移住者体験談
細田 実
目指すのは、農業×料理の新しいコラボレーション
- 萩市
- 細田 実
- 農業
農業を始めるまでのいきさつを教えてください。
現在は萩市の福栄地域でミノルファームという農場を経営していますが、その前は愛知と東京でイタリアンの料理人でした。以前勤めていた外食企業で店長をしている時に、東日本大震災直後から「お店で使用している野菜の産地は?」という問い合わせが相次いだ時期がありました。お客さまのそういうニーズに気づき、社内で農業部門を立ち上げたいと進言したこともあったのですが、自分が担当することはなく、その後東京に移りました。同じく東京でも飲食業界で働いていたのですが、有楽町で開催されていた「農業人フェア」がなんとなく気になって立ち寄ったことが、農業へのきっかけです。私は福岡県の出身ですが、父が萩市の出身ということもあり、山口県ブースに立ち寄ったところ話が盛り上がったという流れです。ただ、そこではお話を伺って、その場にいらっしゃった就農の担当者と連絡先を交換したまででした。しかしその直後に、萩に戻っていた両親の健康面に不安があることがわかり、私が生活を支える必要があったため、農事組合法人に就職するという形で農業を始めました。農業人フェアに参加したのが2015年の5月後半で、その直後に両親のことがあり萩に移り住んだのがその年の9月でしたので、わずか3ヶ月で東京の料理人が萩で農業を始めるということになりました。その間に何度か東京と萩とを往復しましたが、農業関係者とお話しする機会を作ってもらったりして、慌ただしいながらも準備を進めることができました。就農までは思い描いた通りに進んだわけではなかったのですが、自分の中で気になっていた農業への道が、一気に開けた3ヶ月でした。
就職から独立まではどのような歩みになるのでしょうか。
萩市内の農事組合法人に就職したのですが、法人の中には自分と同世代が数人、その他はみなさんベテランでしたので、法人に就職していた1年半で、いろんな作業を短期間で経験させてもらいました。9月に入るとすぐに収穫シーズンでしたので、キャベツやブロッコリーなどの収穫作業に入りました。翌春には自分に植え付けから収穫までを任せてもらえたので、自分なりに肥料などを工夫してみると、周りからも褒めてもらえるほどの出来栄えで、収穫も多くできました。入って半年で、最初から最後まで任せてもらえた環境は、自分にとってはラッキーでした。また、就職と同時に山口市で開催されていた農業経営塾でオーガニック農業の勉強も始めていましたので、その1年半の間にやりたい農業の姿も見えてきました。さらにタイミングが良かったのは、自分で始めたいなということを市の方に話していたところ、ハウス栽培の農業をやめられる方から農地を継承できるお話をいただき、農業を始めて2年足らずで自分の農園を持つことができました。最初に始めたのは、自分がイタリアンの料理人だったこともあって、イタリアントマトの栽培でした。おかげさまでこれが賞をいただくなど評判を呼び、現在では、ハウスの他に路地栽培用の土地も取得して、40種類以上の少量多品種の野菜栽培を行っています。
ここまでお聞きしてすごく順調に聞こえるのですが、事前に準備されたことなどはありますか?
実は、農業を始める半年前ごろから、体を鍛えようと思って運動は心がけていました。なにより体が資本ですからね(笑)。それとお金の面については、自分なりには元手が必要だろうとある程度の用意はしていましたが、私自身はラッキーなことに、ハウス・農地・機械などを格安で継承することができました。近年では農業をやめられる方から私のように譲り受けられることも増えてきているので、市や支援機関に相談されてみると良いかもしれません。もちろん、新規就農については手厚い支援が用意されているので、まずは相談がおすすめです。また、移住前ではないのですが、農事組合法人に就職して地元の人と繋がりを持てたことは、独立した現在においてもとても役立っています。農事組合法人のことを地元の人はご存知なので、「〇〇で働いています」と言えばわかっていただけるし、地元の消防団に所属していることもあって地域の人に顔を覚えていただくことができました。このような繋がりがあったからこそ、萩に来て2年も経たないうちから、地元の方々に協力いただいて自分の農場を持つことができたのではないかと思います。この地域もそうですが、農業は従事している方の高齢化率が高いので離農される方も増えており、農地の維持管理が大変になりつつあります。そういう意味では私たちの世代が農業経営を拡大していく機会は多くあるので、安心して任せていただける関係づくりは重要だと思います。
今後やってみたいことなどあれば、教えてください。
私自身は料理人だったこともあり、マルシェに出店して自分の野菜を使ったピザを焼いたり、妻とちょっと変わった野菜を使った料理教室を開催したり、自分の作る野菜をもっと多くの方に食べてもらうための活動を始めています。半農半Xのように、自分なりの時間の使い方で自分なりの始め方ができるのも農業の魅力ですので、一緒に盛り上げてくれる仲間が増えて欲しいですね。
細田 実さん
ほそだ みのる/萩市在住
ミノルファーム代表
福岡県出身。イタリアンレストラン等、様々な店で経験を積む。仕事で様々な食材に出会ううちに食への関心が高くなり、「自分がこだわってつくった野菜をお客様に提供したい」と思うようになる。就農相談会で山口県とつながり、萩市へ移住。萩市の法人に就業した後、2017年に独立。栽培方法にこだわり、高品質でおいしい野菜を作ることを心掛けている。