【レポート】11月16日開催 YYターン!セミナー
- YY!ターンセミナー
- 2024.11.16
地域に根ざす、ニーズから生まれた 起業のカタチ
第4回目となる今回のセミナーのテーマは「地元のための起業の話」。萩市と和木町に移住して起業をされた生利さんと村井さんのお二人をゲストに迎え、移住のきっかけや地域との関わり方、起業の背景にどのような地域の課題やニーズがあったなどについて、お話しをしていただきました。
「スナックどんまい!」は地域の交流の場。コンセプトは「だれかの明日を応援するお店。」
生利 望美さん
スナックどんまい 女将/萩市出身
東京の短大を卒業後、地元の萩市に戻った生利さんは、以前から利用していたコーヒーを移動販売するカフェのオーナーに誘われて2号店を任されることに。移動販売を3年した後も実店舗でのカフェの運営などを任されていました。
そんな中、東日本大震災が起こり、2012年1月にボランティアで岩手へ。ボランティア受入れ先の方から被災地で働いてみないかと誘われ、2012年3月には仕事を辞め、直感的に岩手県大槌町に移住。荒地の瓦礫撤去から始まった仕事は、次第に地域コミュニティづくりや砂浜の再生、最終的には地域施設の管理・運営を担うまでに広がっていきました。
2023年、復興のシンボルである文化交流施設が完成し、役割に一段落したことを感じた生利さんは、気持ちに区切りをつけ故郷の萩市に戻ることを決意しました。当初は2〜3年で帰るつもりだったそうですが、やりがいもあり、現地の人々との深い繋がりも出来て、気付いたら11年になっていたそうです。
萩市に戻った生利さんは、農業や酪農といったこれまでとは異なる分野に新しく挑戦しようと考えていました。同時に、岩手で経験した肩書きに関係なく誰もがフラットに集まって自由に楽しめるスナックという存在が気になっており、町の活気を取り戻すその役割に魅力を感じていたそうです。
そんな胸に秘めた想いを地元の仲間に話したところ、「それは絶対やった方がいい!」と想像していなかった熱い後押しを受けることになり、とんとん拍子でスナックを開業することに。店名は、大人から子どもまで広く親しまれているフレーズで、周りの人をポジティブに元気づけられる言葉「どんまい」に由来しており、これも仲間が決めてくれました。
こうして生まれた「スナックどんまい!」のコンセプトは「だれかの明日を応援するお店。」。来店した人々がつながり、少しずつ幸せを増やせるような場所を目指しています。
出張出店や、漁師さんなど異なる職業の人々が1日店長や女将として活躍するユニークな企画も実施中。多種多様な人々が集い、地域のつながりを深める場として、温かな雰囲気に包まれているそうです。
「どうせ私なんて」と思っていた自分にとって、起業は大きなハードルだったと語る生利さん。それでも多くの仲間とご縁に支えられたから新たな一歩を踏み出すことが出来ましたと、はにかんだ笑顔でお話しされていたのが印象的でした。
「地域と一緒に、ひとつひとつ積み上げていきたい」
村井 優さん
イベント企画会社 株式会社with PLUS代表/茨城県つくば市出身
小さい頃からJリーガーになることを目指し、夢を追いかけてきた村井さん。しかし、ケガでサッカーの道を断念。スポーツ推薦で入った大学を中退するという大きな転機を迎えます。その後、人生をやり直す決意を胸に広島市立大学に進学。在学中にJリーグが地域に根ざしている姿に触れ、「地域を熱狂させるものを創りたい」という新しい夢を抱くようになったそうです。
卒業後は東京のイベント会社に就職。東京本社2年、広島支社で1年経験を積む中で、地域と密着したイベント業務を通じて、仕事の楽しさとその無限の可能性を感じたそうです。2020年、コロナの影響もあって自分のキャリアを見つめ直した時に「地方で町おこしをしたい」という強い思いが芽生え、新たな挑戦の舞台として選ばれたのは山口県和木町でした。
全国から和木町を選んだ理由について、「イベント会社で培ったスキルを一番活かせそうだったから」と村井さんは語っています。和木町の地域おこし協力隊のミッションがイベントに特化していたことと、相談した役場の職員の熱量の高さが決め手となったそうです。
全地域おこし協力隊としての3年間は、蜂ヶ峯総合公園を拠点に「Waki-Hachi-Marche」というイベントを企画し、町に賑わいを生み出すさまざまな取り組みを展開されました。パンとスイーツのマルシェや盆踊りイベントなど、村井さんの手がけたイベントはただの「賑わい創出」だけではなく、地域に根ざした新しい文化と付加価値を生み出しました。
地域おこし協力隊卒業後の2023年、地元の人々との深い信頼関係、仲間たちとの強い絆に支えられた村井さんはイベント企画会社「株式会社with PLUS」を設立。社名に込められた「地域と一緒に、ひとつひとつ積みあげていこう」という思い通り、新しい仕事も着実にこなし、和木町PR大使に任命されるなどさらに活躍の場を広げられています。
一度失った夢が、新しい夢を育む糧になるという力強いメッセージを伝えてくれた村井さん。「これまでイベントに関心のなかった人や企業が積極的になっていく姿や、地域の温度感が変わっていくことにやりがいを感じます」と話すその眼差しは未来を見据え、希望に満ちていました。
「センパイ、ここ、教えてください!」
移住しての起業に関するよくある疑問に一問一答
司会が事前に用意した質問だけでなく、オンラインなどから寄せられた様々な質問に対して、その場でお二人に答えていただきました。
Q:元々起業志向はあったのでしょうか?起業されたきっかけはありますか?
村井さん: 「できたらいいな、でも無理かもしれない」という気持ちが半分ずつでした。地域で起業する人には、地元に溶け込み、愛される「人たらし」なタイプの人が多く、地元の方々と一緒に地域のニーズを見つけて起業するケースもよくあります。でも、僕自身はそういうタイプではなく、オンとオフの差が激しいところがあって、それがコンプレックスでもありました。ただ、そうした人間らしさを隠さずに見せながら、頑張る姿を周りに伝えることで、協力してくれる人や応援してくれる人が増え、その結果として起業につながったのだと思います。
Q:地域おこし協力隊は行政や地域の方とパートナーシップを結んで仕事を頑張るというものだと思いますが、行政との付き合いはどうでしたか?
村井さん:大きな後押しをしてくれたのがまさに行政の存在でした。僕の姿を一番近くで見守りながら、地域に溶け込むためのバックアップをしてくださいました。また、起業に向けた具体的なアドバイスもいただき、大きな力になりました。
Q:起業する時の不安はありましたか?
生利さん:お金に対する不安はとても大きかったです。水商売ということもあり、周囲からの反対も少なくありませんでした。さらに人脈もなく、自信も持てませんでした。でも、事業計画をしっかり立てて数字に落とし込み、「どのくらい稼げば生活できるのか」を具体的に見える化することで、不安が少しずつ解消されていきました。また、友人からの「絶対大丈夫!」という根拠のない励ましの言葉にも支えられました。
村井さん: 生計が成り立つのかという不安はありましたが、和木町の皆さんがさまざまな機会を作ってくれたおかげで道が開けました。また、もう一つの肩書きであるラジオパーソナリティや、テレビの情報番組のコメンテーターとして活動する中で、人を通じて次々と仕事がつながっていっています。
Q:収入については当初の計画通りになっていますか?
生利さん:自分が最低限の生活を維持できるくらいの収入を目指していましたが、今のところほぼ計画通りに進んでいます。
村井さん:おかげさまで、地域おこし協力隊の頃よりは1.5倍〜2倍になっています。
Q:地域ニーズの拾い方を教えてください。また、可能性を感じる起業ネタはありますか?
村井さん:地域の方々が取り組もうとしていることに自ら飛び込み、一緒に成功体験を積み重ねる中で、地域ニーズの種がたくさん見つかると思います。地域の人々が目指す姿に対して「こちらも協力します」というスタンスで関わることで、自然とニーズが見えてくると思います。
またこれからの起業ネタですが、よそ者が気軽に入って来られるためのサポートは大事です。行政だけでなく、民間の起業支援やコンサルティングのサービスがあれば、より心強いと思います。
萩市役所大平さん:萩市は少子高齢化が進む中、地域の高齢者が買い物などで困っていることがあります。こうしたニーズに対応する高齢者向けの買い物支援サービスなどが考えられます。地域課題はたくさんあるので、それをどうビジネスチャンスとして捉え、展開してくかということがポイントだと思います。私たちも地域の課題をビジネスに変える方法については試行錯誤している部分があるので、皆さんの持っているスキルを活かしてビジネスを展開してほしいと思います。萩は築100年を超える古い建物が多く残っているので、最近ではそれらをホテルや飲食店に改装してビジネスを立ち上げる方々も増えています。
Q:これはやっちまったなというしくじりネタがあれば教えてください。
村井さん:地域のキーパーソンに嫌われたことがあります。その理由は、会議の日程を3回も変更してしまったからです。「スケジュールひとつ調整できないやつに町は変えられない」と怒られました。
このとき、私は自分が「よそ者」であることを自覚しつつ、相手への敬意を忘れずに話をしっかり聞きました。そして相手の意見を尊重しながら、自分に何ができるかを真剣に考え、全力で対応しました。こうした誠実なやり取りを続けるうちに、少しずつ信頼を得られるようになり、最終的には話を聞いてもらえるようになり、今では一番の味方です。
関係が崩れることは全てが悪いわけではなく、新しいチャンスでもあります。もしそれを恐れて逃げてしまったら、自分の成長や可能性も失うことになると思います。
生利さん:人生がしくじりなんですが…笑
経験上モタモタしているとうまくいかないです。起業すると決断力を問われることが多いので、スピード感をもって「決めたらやる」のが大事です。
Q:まわりの人を巻き込む「巻き込み力」のコツを教えてください。
村井さん:僕は「巻き込まれ力」だと思います。何か面白そうなことをやっているところに「何やってるんですか?」と入り込んでいきます。
Q:これからこんなことをやってみたいことと、今一歩踏み出そうとされている方へのメッセージをお願いいたします。
村井さん:起業はハードルが高いイメージがありますが、地域の方に応援してもらったからこそ形になり、こうやって生活ができています。地方は一人一人が活躍する舞台が整っているので、埋もれず輝ける環境があります。もちろん覚悟は必要ですが、自分がやってみたいことや地域に必要とされていることが分かれば、それが形になっていくのはあっという間だと思うので、興味がある方はぜひチャレンジしてほしいと思います。私自身も山口に来て本当に良かったなと思っています。
生利さん:萩に来られたことがない方は、まずは一度萩に来て、「ruco」というゲストハウスに泊まり、「スナックどんまい」に遊びに来てください。いろんな人を紹介し繋げていきたいと思っています。ぜひ、ご相談ください。
起業のリアルな答えを聞くことができた一問一答を終え、会場は温かい拍手で包まれました。地域活性に全力を注ぐお二人の活動は、同じように移住して起業を目指す方の勇気やヒントになったのではと思います。